1.樹林帯 白馬岳の花たち
白馬岳の登山は樹林帯歩きから始まる。
白馬岳への登山ルートは主に3ルートがある。猿倉から大雪渓を登るコース、栂池から白馬大池を経るコース、蓮華温泉から同じく白馬大池を経るコースだ。猿倉からのコースでは白馬尻(大雪渓の末端)までが樹林帯であり、あとの2コースは白馬大池までが樹林帯歩きとなる。ひとくくりに樹林帯と言っても、いずれのコースにも特徴があるので少し乱暴ではあるが、樹林帯に咲く花としてまとめて紹介したい。
猿倉から白馬尻へは林道歩きが主となる。6月下旬には林道沿いにあるタニウツギがたわわに花を咲かせる。林道の半ばにある大木に絡みついたツルアジサイが花をつけるのもこのころだ。
林道が終わり、山道に入ると、雪解けを待っていた花々が順を追って咲いている。平地では夏になろうとしているのに、ここではまだ春の様相だ。7月でも雪解けの遅かった窪地には、春の花であるニリンソウを見ることができる。
白馬尻も近くなり、雪の重みで根が曲がった木々が目立つ場所に来ると、サンカヨウがちらほら見られる。ところによっては群落になっている箇所もある。大きな葉とは不釣り合いなかわいらしい花を咲かせる。葉の新鮮な緑色も魅力のひとつだろう。

蓮華温泉から白馬大池に向かうルートは森が深い。ブナ、コメツガ、ダケカンバといった樹種がそれぞれに特徴的な森を形成している。
蓮華温泉から白馬大池を目指すルートでは、7月にはマイヅルソウがあちらこちらで群生しているのを見ることができる。名前の由来となった2枚の葉の間から白い小さな花をつける。マイヅルソウは蓮華温泉ルートだけでなく、ほかのルートでも頻繁に出会うことができる。
いずれの樹林帯でも、一番の主役といえばゴゼンタチバナであろう。数も多い上に、場所によっては大きな群落があり、疲れを癒やしてくれる。6枚の葉と4枚の花弁の組み合わせは端正で美しい。枯木やコケと組み合わせても絵になる存在だ。

沢に近い場所や雪解け水が流れるような水気の多い場所では、オオバミゾホオズキが黄色い花を咲かせる。ちょっと変わった花の形をしている。
オオバミゾホオズキと同様に水気の多い場所で威風堂々と咲くのがオタカラコウだ。背の高さは1mを超え、葉もとても大きい。蓮華温泉近くや栂池近くで出会うことが多い印象がある。

樹林帯で最も見応えのある花はなんといってもキヌガサソウだろう。大きな葉を車輪状に広げる。葉の直径は大きいもので80cmほどだろうか。名前は、傘状に広がる葉を、昔貴婦人が用いた衣笠にたとえたものだという。別名を花笠草(ハナガサソウ)ともいう。そう言われるとなるほど、豪快でありつつ上品さも感じるたたずまいをしている。
キヌガサソウは群生して咲くことが多い。特に白馬尻小屋周辺の群落は大きく、圧巻のひとことに尽きる。

樹林帯で是非見ておきたいと思う花が2つある。シラネアオイとオオサクラソウだ。
シラネアオイは日本特産の花で、草丈の割に花が大きく、そして、独特の気品がある。とても人気がある花だ。
オオサクラソウは他のサクラソウに比べて草丈も花も大きく、見応えがある。
しかし、いずれも見やすい場所に咲いていることは少ない。ガラガラと崩れそうな岩場の上のほうにあったりと、まさしく高嶺の花である。