2.白馬大池周辺 白馬岳の花たち
白馬大池は白馬岳の北東にある高山湖で、ここで栂池からのルートと蓮華温泉からのルートが合流する
標高は2,380m。森林限界を超えている。日陰を作ってくれるような樹はない。空が広く感じられるのはそのせいもあるのかもしれない。
雷鳥坂から小蓮華山に続くたおやかな山並み、青い空に白い雲、そして、青い水。晴れた夏の日には、これ以上ないほどの景観が広がる。
樹はないと書いたが、じつは樹はある。白馬大池の周囲を見渡すと少し盛り上がった濃い緑色の部分がある。ハイマツだ。名前のとおり、地を這うように枝を伸ばしている。
栂池からのルートでは白馬乗鞍岳を乗り越えると白馬大池に着く。白馬乗鞍岳から白馬大池の湖畔には大きな岩がゴロゴロしている。岩の上を飛び渡るような形で歩く場所もある。そんな大きな岩の間を縫うようにハイマツが生えている。広大なハイマツ帯を目の前にすると、大きくうねる海のようにも思えるほどだ。
ここのハイマツ帯に咲く花はそれほど多くはない。キバナシャクナゲやイワウメ、コメバツガザクラ、ジムカデなどがハイマツの合間や岩の間に見られる。これらはいずれも小低木であることから見ると、ハイマツとの競争は思いのほか厳しいのかもしれない。
白馬大池小屋の北側から西側(雷鳥坂方面)にかけて比較的平らな場所がある。冬の間、一面の雪に覆われる。雪解けは7月に入ってからであり、遅くまで雪が残る場所もある。こういった場所は雪田と呼ばれる。
白馬大池には川がない。水源は周囲に降る雨や雪だ。それでも水を湛え続けているのは、絶妙なバランスの上に成り立っているのだろう。雪田からの雪解け水も白馬大池の水源となっている。
白馬大池の最大の魅力はこの雪田あとに広がるお花畑だろう。雪がとけると、まさしくそれを追うように次々に花が咲き始める。
お花畑の代表格はハクサンコザクラだ。最盛期にはピンク色のお花畑が広がる。
一本の茎から2つほどの花をつけるのが一般的だが、中には多くの花をつける株もあり、ブーケのようになっているものもある。
晴れた日は眺める分には美しいが、撮影は難しい。どうしても花に陰影ができてしまい、ハクサンコザクラのかわいらしさが出しにくい。曇りの日や日が陰ったときを狙うのが撮影には向いている。霧に包まれた中で見る姿もしっとりとした風情がある。
岩の周辺や雪田あとの中でも比較的乾いた場所に目を向けるとチングルマが群生している。
チングルマは高山植物の中でももっとも人気がある花のひとつだ。草地から稜線近くまで幅広い場所に生育しており、目にしやすいということもあるが、白い花弁と中心の黄色いしべとの組み合わせが清楚で美しいことが最大の要因だろう。
チングルマは花が終わったあともおもしろい。花柱の先がのび、羽毛状の絹毛となる。これは実を風に飛ばすためだ。羽毛の出始めのころの形が風車(稚児車)に似ており、名前はそこから変化したものだといわれる。羽毛が風にそよぐ様子は見ていて気持ちがいい。
ハクサンイチゲは少し遅れて咲き始める。ハクサンイチゲも代表的な高山植物のひとつで、場所によっては一面の花畑を作ることがある。白馬大池ではそれほど大きな群落はないが、あちらこちらで見ることができる。
上の写真は朝日のなか逆光で撮影したものだが、朝露に光がきらめいてとても美しかったのを覚えている。
花期の長い花だが、花期の後半になると花茎がのびて間が抜けた印象になるので、花期の早いうちに見るのがいいと思う。
秋 紅葉の頃
9月下旬から10月上旬ころにかけて白馬大池は紅葉の時期を迎える。チングルマなどの草紅葉が雷鳥坂の斜面を染める。そこに、ウラジロナナカマドやウラシマツツジといった樹の紅葉が彩りを添える。
10月上旬を過ぎるといつ雪が降ってもおかしくない。白馬大池は再び冬を迎える。