4.稜線 白馬岳の花たち
稜線に出る。ガラガラとした岩や石が転がる尾根が続く。天気がよい日は日差しが直接あたる。一方で冷たい雨の日もある。体が持っていかれそうなほどの風が吹く日もあれば、ガスに閉じ込められる日もある。稜線は全ての天候に直接さらされる厳しい場所だ。そんな場所でも高山植物は岩の隙間に根をおろし、花を咲かせている。
青紫色の筒状の花をつけるチシマギキョウは岩場に生える代表格の花だ。岩の間に生えていることが多いが、ときに島状に群生し、数十もの花をつけることもある。花弁の縁には毛が生えている。よく似たイワギキョウは無毛なので、この点で見分けることができる。それと、チシマギキョウのほうがちょっと面長な感じがする。
白馬岳の稜線は砂礫地や岩場ばかりではなく、草地の場所もある。ハイマツ帯もある。これらが互いに交錯しながら存在している。そのため一概に稜線と言っても見られる花は場所によって様々で飽きることがない。この花の多様さが白馬岳の最大の魅力だろう。
稜線ぞいの草地にはハクサンイチゲがときに大きな群落を作る。7月に見るハクサンイチゲは花茎がまだ伸びきっておらず、若々しい姿をしている。
7月にはイワウメが岩の合間に見られる。大きな株は花を密集してつける。
オヤマノエンドウも早維持期に咲く花のひとつ。地面にへばりつくように生えている。

ハイマツの近くや岩礫地ではチングルマの群落を見ることができる。島状に群落を広げている。この写真は花が終わりかけでまばらだが、最盛期にはもっと密に咲いている場所も見られる。
砂礫地のところどころでミヤマアズマギクのピンク色の花を見ることができる。
シナノキンバイは斜面の土付きの場所で見られる。その花は大きく、見栄えがする。ミヤマキンポウゲといっしょに咲いていることも多い。
ヨツバシオガマ(左)はそれほど大きな群落は見たことはないものの、草地から砂礫地まで幅広く生えている。4つの葉が輪生しているのが特徴で、名前の由来になっている。花は鳥の姿にも似た独特の形をしている。右はエゾシオガマ。
岩の陰の草地に群生していたコバイケイソウ。コバイケイソウは数年おきに当たり年(多い年)があるようで、この写真は多分その当たり年にあたっていたのだろう。少ない年には寂しいくらいにしか花がないこともある。

三国境付近の二重山稜。山稜が並行しており、その間が窪地になっている。

ウルップソウは砂礫地の斜面などに咲く。単独で咲いていることもあるし、条件が適した場所では、この写真のように集まって咲いていることも多い。花は下から咲いて順に枯れていく。夏の後半になると下のほうが枯れた状態になってみすぼらしくなるので、見頃は7月のうちだと思う。大きな葉は厚く、さわるとキャベツのような手触りがある。

イワベンケイはその名前のとおり、岩だらけの場所に生える。ある程度の大きさに集まって花をつける。雄株と雌株があるが、写真のものは雄株。

北側から望む白馬三山。右の頂上が白馬岳。その左に杓子岳と白馬鑓ヶ岳が重なっている。三山の東側斜面は急峻な山容をしている。
急峻な斜面に咲くイワギキョウ。チシマギキョウに比べ、より岩っぽい場所というか、危なっかしい場所に生えているように思う。チシマギキョウよりもやや上向きに花を咲かせるのも特徴だ。

南側から見上げた山頂(標高2,932m)
イワオウギ。山頂直下の絶壁にも生えている。左側のピンクの花はタカネシオガマと思われる。

白馬大雪渓の上部にあたる場所。右側の杓子岳の裾野は常に崩れ続けている。その手前の比較的安定した場所にはミヤマキンポウゲなどの植物が生えている。
ミヤマキンバイは岩場から土付きの場所まで幅広く生える。つまり、見る機会が多い。雪の残る山をバックに撮影するといかにも高山植物らしい光景になる。

崖っぷちに咲いていたミヤマクワガタ。バックは1500m下の下界だ。

高山植物の女王とも呼ばれるコマクサ。これほど岩だらけの場所で生育できるのはコマクサくらいしかない。
一般的なピンク色の花(左)と、白花(右)

ミヤマダイコンソウ

白馬鑓ヶ岳から見た白馬岳(左)と杓子岳(右)

立派な株のミヤマオダマキ。鑓ガ岳の中腹にて。
土付きの場所にはタカネヤハズハハコが咲く。花はドライフラワーのような風貌をしている。

砂礫地のタカネスミレの群落
シコタンソウは岩場に咲く。白い花弁には橙色の斑点がある。

コメススキは地味だが個人的にはなぜか心惹かれる。白馬鑓ガ岳山頂にて。
左上から右へ、アオノツガザクラ、ミヤマムラサキ、ウラジロタデ、ミヤマリンドウ、ミヤマアキノキリンソウ、ウサギギク、ミヤマアケボノソウ、ミヤマゼンコ
イブキジャコウソウは登山道の端っこに生えている印象がある。そういう場所が好きなのだろうか。

西側を遠望すると立山連峰が威風堂々と立ち並んでいる
タカネツメクサはツメクサ類のなかでもがっしりとした感じを受ける。こんもりとした塊状になっていることが多い。

タカネツメクサとは対照的に線が細い印象がするイワツメクサ。
ホソバツメクサ(上段)とクモマミミナグサ(下段)
トウヤクリンドウが見られ始めると高山植物たちの夏も終盤を迎える。他のリンドウの類と同様に、日が当たらないと花を開かない。